心理療法のルーツはエクソシスト?

ブログは心理療法のあゆみから書きはじめてみます。
 現代の心理療法のルーツはフロイトが催眠を学んだ一人のシャルコー(1825~1893)に繋がるメスメル(1734~1815)とされています。でも「無意識の発見」(アンリ・エレンベルガー著 木村敏・中井久夫監訳 弘文堂)には「ガスナーとメスメル」とメスメル以外に、もう一人ガスナーが紹介されています。ガスナーはエクソシストの資格を持つ神父で、当時の人々の病気の治療を行っていました。エクソシストとは祓魔師(ふつまし)のことで、現在でもカトリック神父の初級資格の一つ。悪魔祓いは祓魔術(エクソシスム)と呼ばれます。ヨーハン・ヨーゼフ・ガスナー(1727~1779)は、オーストリアのフォアアールベルグのブラルーツ村で生まれ、1758年からスイス東部のクレースターレで聖職者として活動を始めます。祓魔術(ふつまじゅつ)はガスナー自身がミサの時、激しい頭痛やめまいの症状に苦しみ、それは悪魔の仕業ではないかと考え、教会の規定通りの祓魔術を自身に行うと症状が消えたことによります。以来、自分の教区の病人に祓魔術を行い、やがてその名が知れ渡るようになっていきました。彼の治療の実際を見てみましょう。患者は痙攣発作に苦しむ尼僧。「自分が命令を下すことが、そのとおり起こっても、それでよいか」「よろしゅうございます」「もしこの病いが自然以外によるところあらば、余はイエスの名において命じる。直ちに正体を現わせ」。患者が痙攣し始めると、ガスナーは体のあちこちへの痙攣発作を命じます。さらに悲嘆にくれる人や腹を立てる人、死人そっくりの姿、等、さまざまな姿をとるようはたらきかけます。すると患者はガスナーが述べるとおりの症状やふるまいを体現します。こうしてガスナーは悪霊を調教するような形で治療を進め、最後には追放するというものです。
  みなさんは、このガスナーの治療を、どうご覧になりましたか。催眠に似てますね。もちろん催眠には「イエスの名において」の部分は用いません。宗教の権威を使ったりはしません。「無意識の発見」では、キリスト教の祓魔術(ふつまじゆつ)と後に催眠と呼ばれるようになるメスメルの動物磁気の手法の類似性を指摘しています。
  現代の精神医学や心理療法に直接繋がるのはメスメルの動物磁気でも、宗教の権威を借りながらの類似の技法は、はるかな太古から存在していたのかもしれません。



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