心の傷を癒すということ     中井久夫と風景構成法

 TVで「心の傷を癒すということ」という安克昌氏を描いた番組をみた。そこに恩師の近藤正臣演じる永野良夫が登場する。しかしどう見ても彼は中井久夫先生。
  ここではドラマと関係なく中井久夫氏創案の風景構成法を述べる。業績に触れる。研究の中心は統合失調症。晩年は解離性同一性障害やPTSDと幅が広がる。若き頃よりラテン語や現代ギリシャ語、オランダ語に精通。「ポール・ヴァレリー」等々の詩集を訳出。エッセイ集「昭和を送る」では、天皇は存続を発展より上位に置く価値観を持たざると得ない存在、として文筆家としてのもう一つの顔を持つ。
  風景構成法とは心象風景画で日本独自のもの。1969年に創案。芸術療法学会で河合隼雄氏の統合失調症患者の箱庭作品の報告からヒントを得る。「彼らの箱庭は砂箱の枠の内側にさらに柵を置いて囲んでから物を置く」と聞く。報告と討論を経た中井氏は、漏れ聞くところによると、その一式の導入を決定し病院から業者へ直ちに発注するも、納入までの1週間が待てなかった。砂箱を画用紙に、柵の代わりが枠づけに、ミニチュアは「川、山、田、道・・・・・・」。こうして風景構成法は生まれた。
 風景構成法の魅力を一言で述べるなら、線描きから彩色段階になった頃に見えはじめる心象風景との出会い。それは瑞々しい感情かもしれないし、ある時は郷愁かもしれない。そんな心おどる場面にであえる時がある。
  その後この描画はさまざまに研究が進められた。その研究者の一人が皆藤章先生。安達は院生時代にその研究会グループに誘われた。その頃の思いを正直に述べると「まずバウムを知りたいのに。バウムも知らずに風景構成法がわかるのだろうか」
 月例会での皆藤氏は1対1での解釈法はほとんど語られない。けれども事例報告では学校教員が多いせいもあって「家の屋根が赤いのは統計的に自宅での安心感が充分ではないと言えます。健常群と非行少年群とに有意差のある結果が出ています」と丁寧な説明をされたことを思い出す。
  昨年の大型連休は9日。初めてのイタリア行。ベネチアのサンマルコ広場の大鐘楼から見えた景色は壮観。

サンマルコ広場の大鐘楼からのベネチアの風景
 広がったベネチアの街の赤い屋根やねを眺めても、赤い色の屋根が住まいの居心地のわるさを示すサインには感じられなかった。
                          



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